キャリアをしこうさくご

#1人事マネジメント50年史から俯瞰する~「ジョブ型」の本質とは?

2021年9月7日

 

1.「ジョブ型」とは

「ジョブ型雇用が拡大」、「ジョブ型人事制度を導入」といった記事を目にすることが増えてきました。世の中の人事トレンドがジョブ型にきている、とも言えるでしょう。

 

とはいえ、ジョブ型とはいったい何を指しているのでしょうか。いわゆる欧米型の、職務給に基づく職務主義人事制度であるというのが、まず基本理解となります。一方、対極にあるのは、職能給に基づく能力主義人事制度です。人の職務遂行能力に着目して、その高さや伸長度によって社内ランクや賃金を定めるのが能力主義です。それに対して、職務主義は、その人が遂行している職務そのものの価値に応じてランク分けし、賃金を支払っていく制度というわけです。

 

「人の背中に給与明細が貼られている」と言われる職能給に対して、職務給は「仕事机に給与明細が貼られている」と言われます。つまり、人基準の賃金か、仕事基準の賃金か、というのが大きな違いです。

違いが出るのは、賃金だけではありません。昇格・降格の考え方も変わります。職務主義の場合は、仕事が変われば賃金も変わります。仕事の価値によって社内ランクが定められますので、仕事が変わったことによる降格もあり得ます。一方、能力主義の場合は、異動によって仕事内容が変わっても賃金は変動しません。能力そのものは変わらないのだから、職能ランクの変動は起こらない、降格もないというわけです。また、能力が伸びれば上位ランク(資格)に昇格できるというのが能力主義の発想です。職務主義では、力があっても上位職位に空き(ジョブオープニングと呼ばれる)ができないと、昇進できません。こうした2つの違いが基本にあることを、まず知っておきましょう。

 

2.「職能主義」「職務主義」を繰り返した30年

ジョブ型、すなわち職務主義に関するトレンドは、実は今に始まったものではありません。

さかのぼってみると、かつて日本企業の多くは能力主義をとっていました。しかしバブル経済が崩壊した1990年代初頭から不況が長く続いたことによって、企業は能力主義を見直さざるを得なくなりました。キャリアを積むほど能力が向上するというのが、能力主義の基本思想です。すると、社員がキャリアを積むことによって、賃金があがっていきます。言い換えると、平均年齢があがるほど人件費が高騰します。業績の伸び悩みにより支払い能力が低下した企業にとっては、それは大きな負担でした。そこで抜本的な対応を迫られたのです。

仕事の価値に応じて賃金を支払う職務主義の職務給は、労務構成の変化に影響を受けない魅力がありました。選択肢として検討されることが増えたのです。ただし今振り返ると、転換方針やキャリアへのメッセージが不足していたケースもありました。従業員からしてみると、入社した時にはキャリアが保障されていたのに、急に「自分の事は自分で考えなさい」と突き放された感があった面も否めません。キャリアは自分で作るもの、という自律的キャリア形成も叫ばれましたが、「急に言われても困る」と思ったことでしょう。

しかし、その後、2000年代の中盤あたりからまたトレンドが変わってきました。いわゆる「成果主義」が流行った時期です。ここで課題があったとすれば、本来のねらいとは異なる運用が、結果「行き過ぎ」のように伝わったことでしょう。たとえば、制度変更による大量の降格者の発生が起こったケースがあります。職能主義から職務主義へと転換した意図そのものが伝わらずに、肩書きが外されたという気持ちだけが増えた場合は、職場の活力を下げる方向に動いてしまいました。

 

また、成果重視が「行き過ぎ」たことで、いびつな事象も起こりました。評価対象となる目標のレベルを下げて不利を被らないようにしたり、専門外の不利な人事異動には応じなくなったり、あるいは社内に不協和音が生じる、人材の採用や育成に問題が生じるといったことも起こったのです。

結果的に、制度や運用の「揺り戻し」が起こりました。再び能力主義人事制度と職能給が見直され始めたのです。この頃中国経済が大きく伸長し、企業の業績が回復したことも影響したと思われます。

 

3.社会構造の変化と「ジョブ型」への流れ

そして今また、ジョブ型というキーワードで職務主義のトレンドが起こっています。先のような歴史を踏まえ、なぜ今ジョブ型(職務主義)なのでしょうか。

複合的な要因が一気に組み合わさったのが、コロナ禍といえます。多くの経営者が初めて遭遇するパンデミックは、将来への見通し変化を生じさせました。1つには人件費管理の柔軟性ある制度を好む流れがあるように思います。法整備された同一労働同一賃金への対応にも、職務給の方が合理的で対応しやすいものです。また、リモートワークによって、社員の動きが直接見えなくなり、日頃自然に入っていた情報が入りにくくなったという環境変化もあります。仕事の内容や進捗管理には、個別の職務内容を明確にする前提の職務主義の方が、扱いやすい面があるからです。さらにキャリア形成期間も伸びました。65才までの雇用が当然となり、次は70才までの雇用という流れです。従来型のキャリアシステムでは限界があり、処遇の弾力性が必要になってきました。そこには、自分でキャリアを考えることもあわせて求められます。かつても自律的キャリア形成の流れがありましたが、「制度とキャリア」の変動が、再度繰り返されているとみることもできます。

 

1つ問題なのは、社会システムが追い付かないままコトが動いていくことです。

たとえば、社会が完全に職務主義を中心に発達してきて、自分の専門性を磨きながら転職することが当然である場合と、もともと一社の中で能力を積み重ねていくことが奨励され、転職すると退職金が減る傾向にある社会では、違いがあります。前者が欧米型、後者が日本型の典型と言われてきたものです。

また、企業内で求める経験も急に得られるものではありません。将来の管理者や経営者をポスト採用するのか、あるいは育成するのか。育成するには、幅の広い知識、技能、そして管理能力の醸成を欠く事はできず、それは従来、ローテーションによって培われてきました。そういう仕組みを持つ企業の場合、急に職務主義で固定すると、専門職社員ばかりになって困る面も出くるはずです。

傍らで、社員にとっては世の変化を座して見ているわけにはいきません。70才まで働くとなると、自分の武器、つまり専門能力なくして仕事にありつくことは難しくなってきます。すると、会社の言いなりになってばかりのキャリアが不利になることも出てきます。今後考えていくべきは、企業にとっての人材育成のあり方と、個々人のキャリアにとって将来に渡って糧が得られる力を、同時に実現できる仕組みです。

 

4.役割期待と成長機会が包含された「ジョブ型」へ

かつてのように、また能力主義に回帰するのではないかという考えもよぎりますが、多分そうはならないでしょう。経営視点から考えると、年功的に運用されやすい能力主義は、定年延長時代の人件費負担には耐えられなく見えます。また、同一労働同一賃金やリモートワークといった新たな労働環境の定着化に相性がよいのも職務主義です。

ただし前述のように、日本の労働市場や企業ニーズに合ったアレンジの必要が見込まれます。つまり、能力主義基準が長かった企業にマッチした、新しい職務主義人事制度です。

具体的には、キャリア自律と異動が相反せず、ジョブオープニングに一喜一憂せず、将来が見渡せる仕組みです。つまり、期待される役割がわかり、継続的な成長機会と処遇見通しが持てる制度です。ただしその中には、将来に繋がる専門性を、個々人が自律的に養っていける手段が含まれている必要があります。

たとえば、副業・兼業の容認や、専門性を育成する各種プログラム提供やリスキル機会もその1つです。今後は、企業内で多様な経験をしながら力を身に付け、同時に副業・兼業などによって汎用的な力も広げ、自らキャリアを開拓しながら70才まで活躍し続ける人が、増えていくことでしょう。それが、日本型の職務主義人事制度、すなわち「日本のジョブ型」によって進む方向だと考えます。働き方・雇用のあり方という社会システムの変化が起こっていくさなかに、今差し掛かっているのです。

-キャリアをしこうさくご
-, ,

© 2020 一般社団法人日本能率協会