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#2人事マネジメント50年史から俯瞰する~心理的安全性と管理者のパワー

2021年9月7日

 

1.心理的安全性とは

心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミーエドモンドソン教授が提唱した、チームの生産性を高めるために必要な状態を言います。具体的には次のように書かれています。

 

「チームにおいて、他のメンバーが自分の発言を恥じたり、拒絶したり、罰をあたえることをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態をいう」。

 

昔の伝統企業では、若手が自由奔放な発言をすると上司から窘められ、上下関係に基づいた発言マナーや行動を強いられたそうです。そうなると権限者の発言が重みを増し、意思決定も伝統の枠の中という事が多かったのでしょう。それでは、新しい発想が次々出てくるには程遠いことが、想像に難くありません。お互いが気遣い無く責められることなく自由に発言することで、新しい発想が生まれ、様々な変化に柔軟に対応できる可能性が出てくるものです。

 

2.心理的安全性を築く管理者の行動とは

文献をいくつか見ると、心理的安全性を構築するための管理者の行動として、以下の通り具体的に示されています。

 

  • 部下は上司や仲間を怖がらず、無知をバカにされず、無視されず、役立っているという実感、意見や行動に対する肯定的理解と確実な反応、そして仲間であることの実感を求めていることを理解すること。
  • メンバー間の情報の偏りや一部メンバーだけの深い繋がりを避ける。好き嫌い、合う・合わない、重視・軽視を表に出さず普遍的愛情を傾けること。
  • ミスをしても叱責せず、改善のサイクルを一緒に考えること。「報告してくれて有難う」、その一言が大切。叱責したら報告が無くなることを理解すること。
  • メールや質問、報告の既読無視はダメ。確実に何かの返信を行い、その行為の正当性に敬意を表すこと。
  • 評価的な上から目線の態度、コメントは極力避ける。常に評価されバカにされるのであれば発言、報告は減少することを認識すること。

上下関係の厳しい伝統企業で育った人は、このような世界に違和感を持つかもしれません。ミスをしたら叱られて当然、報告は必要な情報が全て満たされ理路整然と行われることが当たり前、完璧な報告でも上から目線で枝葉末節な事を突かれ、誤字や脱字の指摘で叱られることも日常茶飯事だったと聞きます。しかしそれでは、個の力を引き出す組織にはなかなかなれません。

 

3.管理者がやってはいけないこと

もう一点、さまざまな文献によると、「報・連・相」の活発化を阻害する管理者の態度を具体的に示すものが次のように挙げられます。これも心理的安全性を阻害する行動として理解しても良いのでしょう。

  • 部下の話を優先せず、自分ばかり話す。保身的、外野的態度、言動をする
  • 人事権、評価権をちらつかせる
  • 部下自身で解決策を考えさせる(突き放す)
  • 格の違いを示唆する、見下すような態度、発言をする

人事権や評価権で威圧する話も、かつてはよく聞きました。そもそも、当時の管理者には報告や相談など無い方が評価されたようです。つまり、問題は部下で解決し上司の手を煩わせない事が良いとされていたのですね。正に、「良きに計らえ」の世界です。そして、部下が上司を見習うので、昇進して上司になれば同じような事を繰り返したのでしょう。

 

4.管理者のパワーはどこに?

 

最近では、同じような事は少なくなったと思いますが、それでも上下関係によって発言が制約されたり、評価的な態度で説得されたり、人事権、評価権などの圧力も存在しているのではないでしょうか。過去を含め、なぜこのような態度になるのか、それは、管理者としての権威を守るための行為だと考えられます。簡単に言えば、「部下に舐められない」ようにする意識が働くのです。そうしないと部下を統率し難いと思うからなのでしょう。一方で、その権威が昇進意欲を掻き立てていたことも事実ではないでしょうか。

しかし組織成果は、一人ひとりの力の発揮なしには高まっていきません。そのために、前述の心理的安全性を築く管理者の行動を学び実践していくことは1つの重要なアプローチです。これは決して、フレンドリーな上司であること、あるいは、自由を与えてくれる存在になることと同じではありません。部下の様々な苦情や我儘な要求が出ることもあるでしょう。必要な指摘や指導が行えるだけの権限が明確でないと、組織が機能しなくなることもあり得ます。人事権や評価権、仕事の配分権限の適切な活用は、管理職の持つ基本機能として位置づけられます。

 

5.感動の共有が生む真のパワー

そのうえで改めて管理職の役割を考えてみましょう。現在はかつてないほどの激しい競争に晒され、情報が飛び交い環境が目まぐるしく変化しています。このような環境では、かつての右肩上がり経済のもとで集団同調圧力が活きた時代とは異なり、上司と部下が協力し、チームが一丸となって突き進むことなくして成果は上がらなくなっています。部下に完璧な報告を求めたり、いちいち上から目線で評価的にコメントしたりすることで、より価値が高まることは少ないのではないでしょうか。

むしろ上司は、部下がどうやったら目標を達成できるかに向き合い、支援し続けることが組織成果達成への近道となります。対話やブレーンストーミングなど、上下関係の垣根を越えた知恵の結集と迅速な行動、そして部下と共に汗をかく協労が必要になるのです。その先に見えてくるのは、共通の目標に向けて苦楽を共にした証としての素晴らしい達成感ではないでしょうか。上に立って人任せにしていては得ることのできない深い感動を、部下と共に得ることができるはずです。こうした経験の積み重ねが部下との信頼感を生み、管理者の真のパワーそのものとなります。

メンバーからの信頼を得、管理者としての価値を高めて行く術は、人事権や評価権だけでは高められない成果創出の力と言えます。それを実現するカギは、自らの心理的安全な行動にあるのです。

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