会社/経営をしこうさくご

人材育成の「70:20:10」の法則

【経営の羅針盤 2021年8月】

人材育成に関して、よく聞かれる「70:20:10」の法則。経験を通じた学びを効果的にするためには、何が重要か。本コラムでは、「経験学習」や「ダブル・ループ学習」の考え方を紹介しながら、コロナ禍の先を見据えて大切にしたい、学びや成長の視点を考えます。

1.人材育成における「70:20:10」の法則

人材育成において、「70:20:10」の法則というものがあります。「ロミンガーの法則」と呼ばれているものです。米国のリーダーシップ研究機関であるロミンガー社が、様々な経営者を対象に、何がリーダーとしての成長に役に立ったのかを調査したところ、「経験」が70%、他者からの「薫陶」が20%、そして、「研修」は10%であったそうです。
これを表面的に見ると、リーダーとしての成長にとって、研修は10%しか役に立っていないので、それほど重要ではないと受け止められるかもしれません。

しかし、様々な経験を自らの成長に効果的に結び付けていくためには、薫陶や研修といったものが、経験を積むことと同様に重要であると筆者は考えます。日ごろの仕事ぶりや考え方について、模範としている先輩や上司からフィードバックや助言をもらう。あるいは、研修の機会に、自分自身の強みや課題を把握することによって、成長の道筋を明らかにするといったことが、経験を通じた学びの効果を高めることにつながります。むしろ、経験には多くの時間が費やされるのに対して、薫陶や研修を受ける機会は限られているわけですから、より注意を払う必要があると言えるのではないでしょうか。

 

2.コロナ禍のなかで問われる「研修」の意義

その意味で、コロナ禍によりリモート環境下で働く機会が増えている昨今は、これらの薫陶や研修の意義があらためて重要になります。

オンラインでの会話は、どうしても具体的な要件が中心となりがちです。仕事の背景にある想いや考え方といったものが伝わりにくく、また、助言やフィードバックを受けることも制約されるでしょう。また、研修についてもオンラインで実施されることが多くなり、会社の同期や、あるいは他社の同じような立場の人と交流して、悩みや課題を共有したり、それらを通じて自分を振り返ったりするという機会も減っているのではないでしょうか。

こうしたオンラインによる働き方は、仮にコロナ禍が落ち着いてきた後も、一定程度は継続されることでしょう。一人ひとりの成長の機会を維持するために、振り返りや気づきを得ることを目的とした研修は集合して対面で実施する。あるいは、オンラインでの上司と部下のミーティングの際に、時にはあえて業務以外のことについて話し合う時間を持つ、といった工夫が大切となるでしょう。

 

3.経験学習とダブル・ループ学習

上述のとおり、成長のためには、経験、薫陶、研修を効果的に結びつけることが重要となります。これに関して、「経験学習」という考え方をご紹介します。これは、米国の教育論、組織行動論の研究者であるコルブによって提唱されたものです。

様々な経験を学習に結びつけるためには、経験→内省→概念化→実験し、さらなる経験を重ねていくというサイクルを回す必要があるという考え方です。様々な経験を受け流すのではなく、内省的に省察して振り返り、そこからの学びや教訓を概念化・一般化し、次の行動で試してみる。その経験から、さらに学びを深めていくという、学習サイクルを意味します。
このサイクルで特に重要となるのは、内省であると筆者は考えます。様々な経験の中における自分自身の考え方や行動の結果を客観的に振り返ることで、学びのポイントが浮かび上がってくることになります。

もう一つ、学習に関して、「ダブル・ループ学習」についても、ご紹介したいと思います。これは、ハーバード・ビジネススクールのアージリスによって提唱されたものです。
シングル・ループ学習が、様々な事象について、過去の学習や経験をもとに意思決定や問題解決をし、学習をするのに対して、ダブル・ループ学習では、行動の結果からのフィードバックを踏まえて、そもそもの考え方や前提を問い直し、新たな判断基準でものごとに対処し、学習を深めていくというものです。事象に対する意思決定からの学びだけではなく、そこから考え方自体を見直し学習するということで、ダブル・ループ学習とされています。
今日のように、これまでの成功体験が通用しにくくなっている時代においては、こうしたダブル・ループ学習の視点をもつことが、一層、重要になっていると言えるでしょう。

さらに、ご紹介したような経験学習やダブル・ループ学習の考え方は、個人においてだけではなく、組織について当てはまることもできるでしょう。組織として経験したことを。職場のメンバーが一緒になって内省し、概念化し、学習をしていく。あるいは、組織において当たり前になっている考え方や前提を問い直して、新しい視点や発想で対処していくことが、組織としての成長につながります。
コロナ禍の先を見据えて、一人ひとり、あるいは組織としての学習のあり方を見つめ直すことが、いっそう大切になっているのではないでしょうか。

一般社団法人日本能率協会
KAIKA研究所 近田高志

-会社/経営をしこうさくご

© 2020 一般社団法人日本能率協会