DX(デジタル・トランスフォーメーション)の目的とは何なのでしょうか?
その問いに対して、「DXの目的はUX(ユーザー・エクスペリエンス)である」と、株式会社ビービット 東アジア営業責任者の藤井保文氏は答えています。藤井氏はデジタルデータの活用が進んでいる今の世界を「アフターデジタル」と捉え、企業が取り組むべきDXの方向性を示しています。
多くの企業においてDXへの取り組みが加速している今、その目的は企業(事業)サイドの視点以外でも語られているでしょうか?DXは、自社の顧客にはどんなメリットをもたらすのでしょうか?
この記事では、藤井氏が「アフターデジタル時代におけるあるべき企業の在り方」と題して講演した内容をご紹介します。
藤井 保文 氏
株式会社ビービット
東アジア営業責任者
〈プロフィール〉
1984年生まれ。東京大学大学院修了。上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し、実践者として企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズは累計15万部を突破。AIやスマートシティ、メディアや文化の専門家とも意見を交わし、新しい人と社会の在り方を模索し続けている。https://www.bebit.co.jp/
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アフターデジタルとは
「ユーザーエクスペリエンス(UX)」は経営課題
私が所属しているビービットはユーザーエクスペリエンス(UX)のコンサルタントとSaaS、つまりクラウドサービスを提供している会社です。20年の歴史があり、UXでは老舗だと思います。
私は上海オフィスで日系企業様向けのサービスの責任者をしています。コンサルティングとしてお客様の中に入り、状況確認し、新たにサービスを立ち上げたりする企画のお手伝いをしています。DXの目的は新たな顧客体験を提供していくことと考え、戦略支援もしております。
日本企業はUXを、デジタルマーケティングやデジタルサービスの一つの機能として捉えがちですが、そうではありません。
GAFAと呼ばれる企業や様々なデジタル先進企業では、 UXは経営課題として挙げられるほどの大きなものになっています。それほど大きな要素だと世界では理解されているのですが、なかなか日本ではそのように捉えられていません。日本の場合は、社内にUXの企画ができる部門や人材がいないのが現状です。
今回は中国の事例を交えながら、DXの目的、アフターデジタル社会でのビジネスの捉え方についてご紹介していきます。
デジタル浸透が進む中国から見えてきたこと
今、中国をはじめ、日本でもデジタルが急速に社会に浸透しています。
日用品の買い物や移動の支払いが全てPayPayやAlipayなど、モバイルでできるようになってきています。飲食店ではテーブルにあるQRコードから、注文ができるようになっています。
Uber Eatsなどのデリバリーサービスは人気になっていますが、中国ではほとんどの人がアプリを入れており、食のインフラとして確立されています。また、自転車シェアリングも普及しています。
このように、もともとオフラインであった行為がオンラインになってきています。
オフラインの時には、行動履歴はデータとして保管されていませんでしたが、これが全てモバイルを通すことによって、行動履歴はデジタルデータ化され、IDに蓄積されていくようになりました。
すると、あらゆる生活の行動データが把握されるようになります。これらのデータは膨大でかつ高精度なデータになります。このデータを活用できる企業が勝っていき、活用できない企業は危うくなっていくのが今の状況だと思います。
アフターデジタルとは何か
この状況を踏まえて、「アフターデジタル」について解説します。
中国企業と話をする中で、日本企業のDXの立脚点はズレているのではないかと感じることがありました。なぜそう思ったかについて、ビービットでは「アフターデジタル」という言葉を用いて説明をさせていただいています。
「ビフォーデジタル」では、リアルが強く、ビジネスの軸足はリアルに据えられていました。デジタルについてはやらなければいけないことだと捉えてはいますが、付加価値程度にしか捉えておらず、追加する形で活用をしていました。
しかし、現在、先ほどの例に挙げた通り、今までデジタルにつながっていなかったリアルが、デジタルにどんどんつながるようになってきました。リアルの行動が全てオンラインにつながっています。
ここにきて、これまでのデジタルに対する認識を大きく変えなければ、時代から取り残されるのではないかと考えています。そこでこれからのデジタルに対する新しい認識を「アフターデジタル」と呼ぶことにしました。
「リアルは重要でなくなるのですか?」と言う方もいますが、そういうわけではありません。
デジタルとリアルはそれぞれ得意分野が違います。人と直接相対しながら、感動的な体験を提供する、こういったことはリアルが得意としていることです。デジタルが得意なのは、いつでもどこでも接することができることです。
一方でリアルについては、デジタルベースで考え直さないといけないところもあると思います。Uber Eatsを頼むようになって、レストランに行く回数が減りました。ネットフリックスを見るようになって、映画館に行く回数が減りました。そのような環境の中、レストランや映画館に行こうと思ったら、せっかくなので、いつもより良い体験をしたいと考えます。その体験に対する期待値がビフォーデジタルと比較して高まっているわけです。
接点は少なくなりますが、より高いサービスを求めるようになる点は非常に重要だと考えています。
ビジネスにおける変化
「属性データ」から「行動データ」の時代へ
以上の点は社会的な側面から、「アフターデジタル」を捉えているわけですが、ビジネスにおいては、どのような変化が起こっているのでしょうか。
私は「属性データ」の時代から「行動データ」の時代になったと言えると思います。
これまではデータは「属性データ」しか取ることができませんでした。従って、その属性に対してターゲットを振り分けることしかできませんでした。
属性データはかなり粗いデータですから限界があります。現実の私たちは、常に同じ属性でいることはありません。仕事をしている時、家族でいる時、友達と一緒にいる時ではモードが違います。何を求めるかも違ってきます。人間はそういう状況の集合体であると捉えると、状況によっては、その属性に当てはまらない、ということも起こります。
一方で「行動データ」は、その状況を把握することが可能になります。モバイルやセンシングやIoTといった技術革新によって、その状況に合わせたコンテンツの提供もできるようになってきています。例えば、その顧客が置かれた状況、悩み、課題に対してソリューションを提供して、その内容がお客様に寄り添うことができれば、最適なコミュニケーションになると言えるでしょう。
その意味では、企業競争の焦点が「製品販売型」から「体験提供型」に変わってきているというのがビジネスサイドからみた「アフターデジタル」になるのかと思います。
音楽で考えるとわかりやすいと思います。
これまでCDを購入していたが、今ではSportifyなどのサブスクリプションサービスで音楽を聴く、という人が増えています。雰囲気に合わせた曲をプレイリストから選ぶこともできますし、プレイリストを作って他人と共有することもできます。そういった活動全てを含めた体験が価値になっているわけです。
中国平安保険の事例
ここまでの話を読むと「デジタル企業でなければ生き残れない」と思うかもしれませんが、そうではありません。DXに成功した企業として、中国で話題になっている中国平安保険の事例を紹介します。
中国平安保険は、保険と銀行と投資をしている金融コングロマリッドです。保険は適用期間が長い商品なので切り替えるまでお客様との接点が全くない場合もあります。
しかし同社がそれでは次の時代を生き抜けないと考えました。そこで取り組んだのが、生活圏にデジタルサービスを提供することでした。現在、このアプリのユーザーは3億人いて、うちアクティブに使用している人は8000万人います。規模で言っても、モンスターアプリと言えるでしょう。金融事業者が作ったアプリにこれほどのユーザーがいるのはすごいことだと思います。
これほど利用されているのには、これまでの中国の医療環境があまり良くなかったことに理由があります。例えば、上海で開業医に行くと当たり外れが非常に激しいため、みんな大きな病院に行く傾向があり、大型の医療施設は常に混雑していて数か月先まで予約が取れないというような問題が起こっていました。
そこで考案され、好評を得た人気アプリが「平安グッドドクター(Ping An Good Doctor)」です。
このアプリの機能は無料の問診です。アプリに症状を伝えると、お医者さんから返信があり、病院に行くべきかなどを教えてくれ、そのまま病院を予約することもできます。医者のリストが閲覧できユーザーレビューも確認できるので、自分でどの医者にかかるか選択、判断できます。簡単に病状の確認と予約ができるため、このアプリはすごい勢いで普及しました。
そのほかにも歩くだけでポイントが貯まる機能があり、貯まったポイントは商品と交換できます。このポイント獲得には時間期限があるため、ユーザーは定期的なアプリ起動が必要になり、接点強化につながっています。
無料で商品を提供する企業の負担は大きいですが、実はこのアプリが営業に最適な機会を創出する役目を果たしています。お客様の行動情報や健康情報をベースにタイムリーに保険営業ができるので新規顧客の獲得につながりやすいのです。
この事例から従来型の企業もDXを使って、大幅に躍進できることがよくわかると思います。
次回は「アフターデジタル」で、成功企業が備えるべき思考法「OMO(Online Merges with Offline)」について説明します。
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