企業が講じるべき安全配慮には心も含まれることから、いま、多くの職場でメンタルヘルスへの対応が進められています。
「ストレス」とはもともと、物質工学的な概念です。物体に圧力をかけると歪みが生じる。人間の心と身体も同じで、外部からの刺激で歪みが生じます。これがストレスです。
チャレンジしたり、良い仕事をするうえで、ストレスは必ず存在します。
むしろ適度なストレスは脳を刺激し、心身を活性化させるために必要ですし、適度なストレスがない毎日はマンネリ化します。
精神医学の世界では「ストレスがまったくないと認知症が早く発症する」ともいわれます。
しかし、自己回復にも限界があります。メンタルが不調をきたすのは、ストレスが自己回復の限界を超えるとき。セルフケアによって、ストレスをよい塩梅に保つことが大切です。
上手なセルフケアの方法や、部下の悩みの引き出し方について、プレイバック・シアター研究所 所長(日本能率協会 専任講師)羽地朝和氏にお話を伺いました。
※この記事では一般社団法人日本能率協会が発行している機関紙「JMAマネジメント 2019年4月号」の掲載記事をご紹介しています。
ストレスが限界を超えるときのサインを知って上手にケア
では、どうしたら上手にセルフケアができるのでしょうか。
セルフケアは自分のストレスの「サイン」を知ることからはじまります。
そのサインは人によって異なるもの。サインは大きく行動面、身体面、メンタル面の3パターンがあります。
行動面のストレスサインは、たとえば、お酒が増える、遅刻する、暴言を吐く、ミスや忘れ物が増える、など。
身体面のサインは、肩がこる、胃が痛む、疲れがとれない、食欲がない、など。
メンタル面のサインは、寝つけない、憂うつになる、不安になる、無気力になる、などです。
自分の出やすいストレスサインを把握したら、次に、自分のタイプにあった方法でストレスを発散しましょう。
行動面にサインが出やすい人は、やはり行動で発散するとよいでしょう。たとえば、ランニングや旅行など、アクティブに発散する。
身体にサインが出やすい人は、マッサージ、ストレッチ、ヨガなど。
メンタルにサインが出やすい人は、悩みを人に話してみる、瞑想をする。自然に触れる。
このように、自分にあったストレス発散法を知り、生活のなかに取り入れることで、ストレスのセルフマネジメントが可能になります。
部下の「やる気のスイッチ」がどこにあるかを探る
管理職の皆さんにお伝えしたいこと。
それは、職場のメンタルヘルスは、日頃から部下とのコミュニケーションを心がけ、部下のストレスのサインを発見できるかどうかにかかっており、部下が抱えている問題を早期に把握することにもつながります。
「何かあったら言えよ」というだけでなく、意識的に自分からコミュニケーションをとる機会を設けるべきです。
何も大げさに考える必要はありません。週1回10分でよいので対話をする。
10分というのに意味があります。忙しいマネジャーでも10分なら時間を捻出できる。
一方、部下のほうも10分の対話に慣れてくると、優先順位の高いものから話ができるようになるのです。
対話は業務の話題だけでなく、本人が話しやすいもので構いません。
そうすれば、発言内容だけではなく表情や態度、話し方などから、部下の異変をキャッチできるでしょう。むしろそういった異変のサインをつかむことが目的です。
そうして「疲れがたまっているようだけど大丈夫?」「何か困っていることある?」と、気軽に聞ける雰囲気を職場につくることができれば、理想的です。
それが日常的にできるようになれば、部下のほうから相談をもちかけやすくなり、メンタル面だけでなく身体の不調の早期発見・早期治療につながります。
部下が相談しやすくなり、本音で話せるようになると、部下は「自分は認められている」と実感し、信頼関係が生まれます。
そしてここで大切なのは、部下一人ひとり「やる気のスイッチ」が違うことです。
たとえば、「話を聞いてもらえれば満足」という人がいます。
一方で、正しい/間違っている、よい/悪いといった「評価」を欲しがる人がいます。
あるいは、自由にさせてほしい、賞賛されたい、頼りにされたい、という人もいます。
日ごろのコミュニケーションが大切な理由は、部下の「やる気のスイッチ」を探るためでもあります。
よく部下から相談を受けたので、よかれと思い自分の経験からのアドバイスを延々と続ける人がいます。部下のためだと思ってやっていても、そこで「やる気のスイッチ」を間違えると、部下はかえってストレスをためこんでしまい、逆効果になることもあります。
私がコーチングやカウンセリングをするときにも、初対面時は「やる気のスイッチ」を探ることにまず徹することにしています。
部下に合わせた指導が必要ないがしろにしてしまうと……
部下のモチベーションを上げたり、職場のメンタルヘルスを保つには、部下の特性に応じた「個別指導」がポイントになることがわかります。
部下一人ひとり、答えは異なりますし、かかわり方も異なります。
けっして簡単なことではありませんが、そうした部下の特性に合わせた指導をすることこそ、ダイバーシティを活かして成果を出すマネジメントといえるでしょう。