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ニューノーマル時代の人材と人事マネジメント

2020年9月4日

新型コロナウイルスの感染拡大は、「10年分の変革が2カ月で起こった」といわれるほど、組織と人のあり方に大きな変化をもたらしました。

多くのビジネスパーソンの行動様式が変わることで、ビジネスのプロセスも変わり、「新常態(ニューノーマル)」として定着しつつあります。この変化の流れはコロナウイルス収束後も止まることはないでしょう。

そのような環境の変化にどう対応していけばよいか頭を悩ませている人事担当者も多いのではないでしょうか?これからの組織と人の良好な関係づくりのために、人事担当者には、

  1. さらにこの先、人と組織がどのように変わるのかを見極める
  2. その上で人事担当者が果たすべき役割を認識する
  3. 役割を果たしていくために、既存の価値観ややり方を見直す

    という3つのアクションが求められます。

今回は、人事分野研究の第一人者である学習院大学 守島基博教授に、上述の内容も含めこれからの人事担当者の役割についてお話を伺いました。

※この記事では一般社団法人日本能率協会が発行している機関紙「JMAマネジメント 2020年8月号」の掲載記事をご紹介しています。

学習院大学 経済学部経営学科 教授
一橋大学 名誉教授
守島基博氏

【プロフィール】(取材当時)
1980年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。86年米・イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。
カナダ・サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。慶應義塾大学総合政策学部助教授、同大大学院管理研究科助教授・教授、一橋大学大学院商学部研究科教授を経て、2017年より学習院大学教授。20年から一橋大学名誉教授。

コロナウイルスによって、組織と人のあり方が変わる

「自律・分散・協働型」組織

新型コロナウイルス感染症は働き方と組織を急激に変えました。
厚労省がLINEユーザーを対象に行った調査によると、テレワークや在宅勤務の実施率は全国で
13%(3月中旬)から28%(4月中旬)へ。従来からの働き方改革を一気に推し進めた格好です。

こうした環境変化のなか、人事はいま何を考えるべきなのでしょう。
1つは、コロナが収束した後も緊急事態措置実施期間中と同じ働き方が続くかどうか。いまのところ、「ある程度続く」ものと考えられています。

経団連がテレワークや在宅勤務、時差出勤などを奨励していますし、各種の調査を見ても従業員の6〜8割が「継続したい」と答えています。

もう1つ、人事として考えたいのは、この流れの行き着く先です。テレワーク・在宅勤務は組織をよりバーチャルに、フラットに変えていくでしょう。その結果、組織は私が以前から提唱している「自律・分散・協働型」と近づいていきます。

すなわち、一人ひとりが自律し分散して働きながらも、協働して成果をあげていく組織です。

自律・分散・協働型の組織は、会社に2つの変化をもたらします。1つはマネジメントのあり方です。従来のマネジメントは、目の前にいる部下を監視し、コントロールするものが一般的でした。しかし場所を共有しない働き方ではそれが難しい。

階層や監視やコントロールではなく、現場でのコミュニケーションやコーディネーション重視のマネジメントに変わっていくと考えられます。

目標や仕事をセルフマネジメントできる人材

もう1つ変わるのは、人のあり方です。

これから評価されるのは、上司に指示されたことを粛々とこなす人材ではなく、自分で目標を設定し、自分でペースをコントロールしながら、目標を達成していく自律的な人材。

人事にとってテレワークは、自律的な人材を育てるチャンスであるとも捉えることができます。

インフラづくりが急務

この急激な変化がもたらすものは、明るい話だけではありません。
テレワークと人事評価に関するある調査では、上司と部下の不安を明らかにしました。

上司は「生産性が下がっているのではないか」「(部下が)仕事をさぼっているのではないか」と、部下は「オフィスより仕事がはかどらない」「(上司に)さぼっていると思われているのではないか」と疑っているのです。

また4月上旬に行われた別のテレワークに関する調査でも、対象となった約3000名のうち6割以上が「テレワークになって生産性が下がった」と答えました。

たしかに働き方は変わりました。しかし、従業員はまだ自律的に働くことに慣れておらず、エンゲージメントや生産性は低下している。

この事実は、新しい働き方を支えるマネジメントや、コミュニケーションのインフラが追いついていないことを示唆しています。

それでも自律・分散・協働型の働き方を続けるならば、新たなマネジメントのあり方やコミュニケーションのインフラを構築し、それをエンゲージメントの向上、生産性の向上につなげる道筋をつけなければならないでしょう。

これからの人事に求められる役割は6つ

人事の6つの役割

その音頭をとるのが人事の役割です。
これからの人事に求められる役割は何か。私は次の6点を挙げたいと思います。

❶ITの活用とコミュニケーション環境の提供

テレワークなど、すでに推進されている企業が多いはずですから、ここでは詳しく触れません。

❷上司・部下の信頼関係構築支援

部下を信頼せず「5分ごとにマウスを動かさないと仕事をしていないとみなす」上司がいるそうです。こうしたマイクロマネジメントでは生産性が向上しませんし、従業員のエンゲージメントも低下します。バーチャルな環境下における、新たな信頼関係の構築が望まれます。

❸理念やビジョンなどの共有

1つの職場を共有しないテレワークが浸透すると否応なく、人と組織の物理的だけではなく、心理的な距離も離れていきます。組織としてのまとまりには、理念やビジョンの共有が不可欠です。

❹真の意味での成果主義(評価の工夫や丁寧なフィードバック)

評価のメッシュをもっと細かくすることです。「○カ月後までに○○をやってほしい」などと目標を明確に定める→目標を達成できたか否かを評価する→社員にきちんとフィードバックする。このサイクルをうまく回すことが、これまで以上に重要になります。

❺従業員の自律支援

これから評価されるのは自律的に働ける人材です。これまで日本企業では「出る杭は打たれる」で、自律した人間を歓迎しなかったきらいがあります。しかし今後は彼ら・彼女らにこそ高い評価とリワードを与えるべきです。

❻情報透明性(トランスペアレンシー)の重視

働く人が同じ場所を共有していないことから情報が伝わりにくくなります。結果として従業員に不安がつのり、パフォーマンスとエンゲージメントが低下する。情報の透明性は、より重要になります。

以上6点を、経営と一体となって推進していくこと。コロナを経て、人事のやるべきことはますます多くなっていくでしょう。

これからの組織と人の良好な関係づくりのヒント

働く人と組織の距離

テレワークのような働き方では、組織と人の距離がどんどん拡大していきます。
従来、日本企業はさまざまな方法で、この距離を縮めようとしてきました。飲み会、社員旅行、運動会などにより、仲間づくりやキズナづくりを重要視した。これらは今後も重要でしょう。しかし飲み会などの実施はより一層、難しくなっていきます。

そうなると、組織と人の関係性のキーは、1つには理念への賛同、共有・共鳴、ビジョンへの共鳴といったことになるでしょう。

ならば、人事がやるべきことは、比較的リモートが多くなっていくなか、どうやって理念やビジョンを共有し、組織を一つにするかということです。情報のトランスペアレンシーとも同じ考え方ですが、1つにはこれが重要になってくる。

もう1つ重要になるのが、自律した人間を怖がらない、ということです。従来、日本の人事や経営層にとって、自律した人はウエルカムどころか、むしろ出る杭として打たれる傾向にありました。

しかしこれからは、組織と距離感のある人をどう見るか。

エンゲージメントが高い人だけが重要なのではありません。むしろ会社がすべてではない人たちが外のアイデアや外の資源をもちこみ、最終的にイノベーションやクリエイティビティにつながることもあるでしょう。

こうした人をバウンダリースパナー、境界を超える人と呼びますが、必ずしもエンゲージメントが高い人だけが価値ある人なのではない、と知るべきです。
そうした自律した人たちは、組織に対するコミットメントやエンゲージメントが従来とは異なるところがあるかもしれません。

しかし、目標に対するコミットメントや、自分の仕事に対するエンゲージメントは高いはずです。

バーチャルの組み合わせ方

こうしたなか、欧米などのグローバルなマネジメントの好例は、たいへん参考になるでしょう。

よいマネジメントは、きわめて上手にリアルとバーチャルを組み合わせています。具体的には、最初の1〜2回のミーティングをリアルで行い、以降はバーチャルな会議で済ませる、というように。

今後、完全な自粛の状態から、普通の状態に戻っていくにつれ、このリアルとバーチャルの組み合わせ方は考えられていくでしょう。
もちろん、企業によって異なっていい。企業文化が違うのですから。

1つ確かにいえるだろうことは、従来のような飲み会によるコミュニケーション深化がこれからは難しいことを前提に、人間関係をバーチャルな場でうまく回すためにリアルな場で上手につくっていくことが重要になる、と私は思います。

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