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ネットワークサイエンスで改善!在宅勤務のコミュニケーションと生産性低下

2021年1月22日

今回は、ピープルアナリスト 大成弘子氏に、働く人々の幸福に関するデータ活用についてお話を伺いました。全4回にわたって沢山の事例を交えながらご紹介していきます。前回の記事(ピープルアナリストが語る、リモートで組織のつながりを強化する方法)に続き、最終回の第4回目となります。

今回は、リモートワークにおける問題TOP3のうち、

1.リモートワークによってつながりが薄れている、孤独を感じる
2.リモートワークでパフォーマンスが低下する社員がいる
3.リモートワークでオンラインミーティングが増えたが、どうコミュニケーションしたらよいか

『2.リモートワークでパフォーマンスが低下する社員がいる』『3.リモートワークでオンラインミーティングが増えたが、どうコミュニケーションしたらよいか』について主にネットワークサイエンスの知見を用いて解決策を提案します。

大成 弘子 氏
ピープルアナリスト

<プロフィール>
「働く人々を幸福にする分析」を自分の生涯のミッションとして掲げる。2013年にSNS上での人間関係はリアルとどう違うのかネットワーク分析の論文をPLoS ONEで発表、翌日にMIT technology Reviewにも取り上げられる。
2014年に広告会社の新規事業部にピープルアナリティクスサービスに従事したことがきっかけでピープルアナリストとしての仕事をスタートする。
2018年より一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会研究員に就任。2019年成城大学データサイエンス教育研究センターアドバイザリー委員に就任。著書として、『データサイエンティスト養成読本~ピープルアナリティクス入門』2018年、『データサイエンティスト養成読本~ソーシャルメディアネットワーク分析』2016年、『プログラマのための論理パズル』(翻訳)2009年、「採用と活躍の技術」WirelessWire News(Web記事連載)2018年

2021年日本能率協会主催「信頼力をあげて組織のパフォーマンスを最大化する方法」研究交流会ではメインファシリテーターをつとめる。

※本記事は大成氏が登壇したJMAマネジメント講演会「リモートワーク時代の、人を活かし、組織を良くするデータ活用の在り方~組織のつながり方と働く人の幸せ~」の講演内容をまとめたものです。

ネットワークの三角形とパフォーマンスは相関する

リモートワークでもパフォーマンスは高められる


次に二つ目のお題、リモートワークでパフォーマンスが低下してしまうという問題です。

最近、様々なコロナ禍に関する調査結果が出ていますが、中には結構励まされるデータがありますので、二つご紹介します。

一つはリモートワークにより最初はパフォーマンスが低下したものの、多くの場合、以前と同じパフォーマンスに戻りつつあるというデータです。

この調査は650人程に対して3月から5月の間に行ったアメリカの調査です。アメリカは日本よりもコロナウイルスの流行が少し早かったため、リモートワーク等の展開も先行していました。最初はリモートワークを始める前と比較してパフォーマンスが落ちたものの、だんだんと以前と同じパフォーマンスに戻りつつあるという結果です。

もう一つが、コロナ禍以前からリモートワークを経験している人達は、出社している時と近い状態で偶然のコミュニケーションが起きているという調査結果です。偶然のコミュニケーションというのは、セレンディピティや、出会いがしらに起きるちょっとした偶発的なひらめきというようなものですね。

リモートワークであってもセレンディピティ的なことは起こせるという結果が出ており、人間は非常に適応能力が高いことが調査で見えてきています。とても明るい、励まされる結果ですよね。

パフォーマンスとネットワークの関係

リモートワークだからパフォーマンスが低くなったのか、それとも元々パフォーマンスが低かったのか?いろいろ話を聞いていると、リモートワークだから、というわけではなく、元々パフォーマンスが低かった人が更に低くなっているのではないかと思います。

では、パフォーマンスの低い社員とはどういう社員なのかというと、ネットワークサイエンス的に見て孤立した社員だと言えます。

実際に2008年に調査した論文では、友達と友達が繋がっている時にできる三角形が多い人ほど生産性が高いと書かれています。細かく見ていくと、複雑な仕事をする労働者ほど、三角形が多いと生産性が高いという結果が出ています。

(※大成弘子氏 講演資料より)

且つ、これは対面ネットワークの時だけだと書かれています。メールのネットワークだと、逆に三角形が多過ぎる時は生産性が下がるという結果が出ているのです。単純作業では、三角形が多いといろいろと話しかけられて集中できないので、そういう場合は少ない方が良い。しかし、複雑な知識労働的業務では、三角形が多いと生産性が高まります。

このことから、複雑な仕事をする労働者のパフォーマンスが低い場合には、孤立している、ということが想像できます。繋がってるのが上司だけのような状態はパフォーマンスが低くなってしまいます。

このようなパフォーマンスが低い、あるいは孤立した社員に対して、お前の努力が足りない、とか頑張れ、給料が出ないぞ、と個人の問題で片付けてしまうと、その人自身が実際は努力していてもパフォーマンスが改善しないことがあります。

そもそも企業は採用というフィルターをかけて、この人ならうちの会社で活躍してくれる能力があると見込んで雇用しています。ですので、パフォーマンスが低くなってしまうのには、個人の能力の問題だけではない原因が考えられます。

上司との相性が悪い可能性もあります。あるいは、新人だと一人の上司としか繋がっていないために、誰に何を聞いていいのかがわからない状態にあって仕事ができない、非常に非効率なことが起こっている可能性もあります。

中心性を高めてパフォーマンスを改善する

このようなネットワークサイエンス的にパフォーマンスが低い社員がいる場合には、ネットワーク構造で支援する、専門的に言うと「中心性を高める」施策が有効です。

実際に、ある企業では孤立した社員の固有ベクトル中心性を週一度毎週モニタリングしました。
この社員は、非常に明るく周りを笑顔にするムードメーカーで、本人の能力も高かったのですが、ネットワーク上では孤立状態になっています。なぜなのか担当のマネージャーに聞いてみると、実はこの社員は一人で仕事をしてもらっているんです、と言うんですね。

であれば他のメンバーと仕事するように役割を少しだけ変えてもらったところ、元々能力も高くパーソナリティ的に人気者ということもあり、どんどん中心性も高くなり活躍し始めたのです。このように中心性を高める施策は有効であると言えます。

もう一つ紹介したいと思います。
パフォーマンスが測定できない時は、ネットワークが成功を促す、とネットワークサイエンスを切り開いた物理学者である藁橋先生が著書で述べられています。

会社に置き換えると、営業マンでは売上や業績といった計測可能な場合、パフォーマンスがその人の成功を左右します。しかし、事務職やバックオフィス系、管理職ではパフォーマンスの計測が難しくなります。その場合、その人が仕事ができるかどうかは誰と繋がっているかに依ります。

例えば、社内ネットワークが強い上司を持つ部下は7%エンゲージメントが高いという調査結果が出ており、逆に、より部下の方が社内ネットワークに強い場合、離職率がなんと50%高くなるという結果が出ています。

生産性という時には大抵はその業績を見ていくわけですが、そうではない場合にはネットワークを見るという方法が一つあります。

上司と部下の関係をデータ分析で読み解く

上司と部下の相性問題はよく聞きますが、これもデータ分析的で見ることができます。例えば、パーソナリティーの要素が上司と部下で似たような波形を持っている場合には、同質性の高い上司と部下であり、逆の波形を持っている場合は異質性の高い組み合わせになります。

これはどちらが良い、悪いというものではなく、同質性が高ければ「阿吽の呼吸」に近い、似たような思考を持っています。これは効率的に生産性を高めたい組織に向いています。

一方で異質性というのはイノベーションを起こしやすく、クリエイティビティな仕事をする必要がある組織に向いています。このような分析を利用して、相性問題を上手く活用していくことも可能です。

パフォーマンスが低下するという問題に対して解決策をまとめると、
・パフォーマンスの低い社員は、まず他の社員とつなげてみる。
・イノベーションを起こしたいのであれば異質性の高い人を、生産性を上げたいのであれば同質性の高い社員をつなげてみる。

と回答できます。

同質性という意味では、自分と同じ入社時期の社員がいると、何かがあったときに相談したり、頼ることができ非常に心強いので、ここをつなげるのも一つの手ですね。

エンゲージメントの高い社員は「ありがとう」に理由を付ける

構造的空隙がイノベーションを起こす

三つ目に、リモートワークでオンラインミーティングが増えたが、どうコミュニケーションしたらよいか、という問題について考えていきます。こちらも関連する調査をご紹介します。

コロナ禍のコミュニケーションでは、同じメンバー間のコミュニケーションは40%増加しています。しかし、他のメンバーとの間では10%減少したという結果が出ています。

これはいいのか、悪いのか。

例えば、 A さんと B さんがいます。Aさんは人脈が多く6人、Bさんは少なく4人です。どちらが情報弱者に陥りやすいでしょうか。

(※大成弘子氏 講演資料より)

直感的にはA さんの方がいろいろな人と繋がっているので多くの情報が入るのではないか、思いがちですが、実はAさんの方が情報弱者になりやすい環境です。

なぜかと言うと、Aさんを中心に一つのコミュニティができているので、Aさんに情報が集まるのですが、同じ情報がぐるぐる回ってるだけなので、新鮮な情報が入ってこないからです。
一方、Bさんはいろいろなコミュニティにつながっているため、それぞれのコミュニティから、異なる多様な情報を吸収できます。

先ほどの同じメンバー間でのコミュニケーションが40%増えたというは、Aさんの状態です。

Bさんの共通のつながりが無いコミュニティほど新鮮な情報が入る、これは「弱いつながりの強さ」とも言えます。そして、この共通のつながりがない空間を構造的空隙と呼びます。
イノベーションはこの共通つながりのないコミュニティの方が起きやすいと言われています。

エンゲージメントの高い社員は「ありがとう」に”理由”をつける

さて本題に戻って、リモートワークでオンラインミーティングが増えたが、どうコミュニケーションしたらよいか、という問題について考えていきます。では、どのようなコミュニケーションをすれば良いのでしょうか?

(※大成弘子氏 講演資料より)

エンゲージメントの高い社員は「ありがとう」に理由をつけるという話があります。

従業員同士が感謝しているデータを使ってエンゲージメントの高い社員と低い社員で分け、その人達がどういう感謝の言葉を使っているのか分析をしたところ、エンゲージメントの高い社員は、「ありがとう」に「昨日」「対応」「助かる」などの言葉をつけるというデータが出ています。例えば、「今日〇〇を対応してくれてありがとう、助かったよ」みたいな言い方です。

エンゲージメントの低い社員を見てみると「ありがとう」という単語しか使わず、他の言葉をつけていません。

エンゲージメントの高低に関わらず、ありがとうの回数は変わらないぐらい使っていますが、それに付属する言葉がエンゲージメントの高い社員と低い社員で随分差があります。単純に文字数を見るとエンゲージメントの高い社員の方が多くなります。

また、言葉が豊かな上司の部下はエンゲージメントが高いという調査があります。上司の評価コメントの多様性と、部下のエンゲージメントの高さは相関しています。逆に、部下が30人いて全員に同じようなコメントをしてしまうと、テンプレート的な言葉で、全く自分は見られていないと感じてしまいます。

一人一人に具体的な言葉をかければかけるほど、部下は自分のことを見てくれていると感じやすい。豊富な言葉には非常に大きな意味があります。

組織の中に新鮮な情報を流そう

リモートワークのオンラインコミュニケーションでは、同じ人と頻繁にコミュニケーションしがちになります。経営者や人事など組織側から他のチームと会話をする機会を意図的に設けていくことが、新たな情報の獲得につながり、コミュニケーションの活性化に寄与します。

また、オンラインでは感情的情報をはじめ非言語情報が伝わりづらくなるため、ミスコミュニケーションが起きがちです。上司、マネージャーが豊かな言葉で、ありがとう一つにも理由をつけて話してみることが、エンゲージメントを向上のカギになってきます。


リモートワークにおけるパフォーマンスやコミュニケーションの課題について、いつもと少し視点を変えデータ分析やネットワークから捉え直してご紹介してきましたが、解決のヒントが見えてきたでしょうか?

こういったテーマに悩まれている経営者、人事、マネージャーの方はぜひ一度取り組んでみることをお勧めします。



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