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DX推進のためのITシステムの最適化とは?<DXの基礎知識⑨>

2021年6月16日

今回はDX(デジタル・トランスフォーメーション)の基礎知識や進め方について、イチから学びたい方のために、日本能率協会の「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進セミナー(オンライン)」で講師をつとめる高安篤史氏にコラムを寄稿いただきました。

このDXのコラム連載は、下記の様な流れで全9回にわたって進めていきます。

著者プロフィール

高安 篤史 氏
合同会社コンサランス 代表 / 中小企業診断士  

早稲田大学理工学部工業経営学科(プラントエンジニアリング、生産管理専攻) 卒業後、大手電機メーカーで20年以上に渡って組込みソフトウェア開発に携わり、プロジェクトマネージャ/ファームウェア開発部長を歴任。 IoTのビジネスモデル 構築に関するコンサルタントとしての実績 及び自身の経験から「真に現場で活躍できる人材」の育成に大きなこだわりを持ち、その実践的な手法は各方面より高い評価を得ている。
・情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、応用情報技術者、セキュリティマネジメント)
・IoT検定制度委員会メンバー(委員会主査)
・2019年4月に書籍『知識ゼロからのIoT入門』が幻冬舎から発売
・2020年に共同執筆した「工場・製造プロセスへのIoT・AI導入と活用の仕方」が発売

日本能率協会主催「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進セミナー(オンライン)」では講師をつとめ、参加者が自社のDX推進レベルの理解と改善方法の検討ができるプログラムを提供している。

ITシステムのカスタマイズ

日本のITシステムの問題で近年大きな話題になっていることは、日本企業のIT投資の大半は保守費用に使われていて、価値を生み出す新規投資はほとんど実施されていないということです。欧米では、大半のIT投資が価値を生み出す新規投資に使われています

 

どうして日本はこのような事態になってしまったのでしょうか?

 

前回のコラムで、標準化の重要性について記載させていただきましたが、実は、標準化の問題が、日本のIT投資の問題にも影響しています。つまり、標準化していない業務をIT化すると、当然システムのカスタマイズ 又は 新規開発が必要になります。この負のIT遺産になった元凶は、この標準化されていない業務に合わせて作られたITシステムです。誤解が無いように補足すると、全面的にカスタマイズが悪いと言っているわけではありません。本当に価値がある(他社に打ち勝つ価値の源泉)部分は差別化し、他社からブラックボックス化し、それらに関連するITシステムもカスタマイズすることは問題ありません。前回のコラムでもお話したように、慣れ親しんできた業務のやり方に価値があると誤解があることに問題があるのです。結果、カスタイマイズして作ったITシステムは、ブラックボックス化され、ITベンダーは保守するための大きな工数が発生します。また、新たなシステムのバージョンがリリースされる毎にカスタマイズが必要になり莫大な費用が発生します。また、このカスタマイズにより、特定ベンダーに大きく依存した状態になり、他のベンダーへの切り替えができない、いわゆるベンダーロックインの状態になります。この結果、ベンダー間の競争が働かなくなり、ITベンダー自身も成長しないことになっています。

 

日本と全く違う、米国のITシステム導入

DXの中核となるIoT(Internet of Things)/AI(人工知能)に関連するシステムの考え方はどのようになるのでしょうか?従来のITシステムでの中心は「機能」でした。投資判断の考え方は、「ある機能をサポートしたITシステムを活用することで、生産性の向上が図られ、コスト削減が進むのだから、このITシステムへ投資をしても良いだろう」という流れです。IoT(Internet of Things)/AI(人工知能)では、中心は「機能」ではありません。「機能」がサポートされた状態から、試行錯誤でデータの収集/データの前処理を行い、適切なAI(人工知能)の学習手法を選択し、またハイパーパラメータのチューニングにより精度を高めていきます。実際に進めていっても、収集データの不足、データ精度の欠如などの要因で成果に結びつかないことも多く、投資対効果が事前に判断できません。PoC (Proof of Concept:概念実証)などを実施することも多いですが、それでもITベンダーにお願いし、3人で3か月程度の工数をかけても、PoCで効果が無かったという結果になることの方が多いです。しかしながら、日本では、発生した人件費はITベンダーへ支払うことが一般的です。また、さらに追加で対応をITベンダーにお願いすると、当然追加費用がかかります。ITベンダーからすると、うまくいかなかった方が追加のお願いが発生し、売り上げが増えるということもあり、成果自体が忘れさられてしまう傾向になります。日本の新規のITシステムの開発やカスタマイズに関しての費用は、あくまでも人件費の山積みであり、人月単価になります。つまり、このくらいのレベル(経験年数、資格、習得スキルで決まることが多い)の人の月単価は100万円で3か月稼働したから300万円という計算です。

 

一方、米国でのITシステム導入は、全く違う考え方です。DX以前からそうですし、さらにこの考え方が強化されているといってもいいでしょう。米国での考え方のポイントとなる点を箇条書きします。

・ITスキルは、企業のコア技術と捉えないと、企業の競争力が無くなる

・従って、IT部門は企業の中核であり、その部門の高度な人材が重要・長期的な保守を考えると、標準的な市販品(パッケージ品)のシステムを購入することを前提にする(前回のコラムでも話しましたが、米国では全ては標準化が前提であり、特殊な業務やITシステムは極力少なくすることが長期的視点での最適化という考え方)

・企業の競争力の源泉である部分のITシステムは、カスタマイズ 又は 新規に開発する

・カスタマイズ 又は 新規に開発する際もITベンダーに依頼するのでは無く、自社開発を目指す

・社内のIT部門の高度な人材でも対応が難しければ、対応可能な新たな人材を雇ってくる

・社内のIT人材は、ITツールの開発や導入で、成果を生みだすことに集中する(日本のように作業時間をベースには考えない)

・ITベンダーと協業することがあっても、日本のような人件費の山積みである人月単価にはならず、成功報酬的な考えで価格/報酬が決まることが多い(例えば、コストが1億円削減できれば、この対応が他社のITベンダーではできない内容であれば、ITベンダーが25%の成果報酬を得るいう形で契約が決まる)

・上記により、あくまでも見える成果にこだわることで、IT担当とユーザがWin-Winの関係で、アジャイル開発が可能になる

・ユーザ部門にいるITエンジニアも同業他社に移籍することも多く、ユーザ業務を熟知しているITエンジニアが存在する

この米国のような考え方は、「IoT(Internet of Things)/AI(人工知能)に関連し、試行錯誤しながら高度化する仕組み」であるDX時代のシステムに向いています。従来の日本のITシステムはカスタマイズにより、長期の視点では負の遺産になっていることで米国などとの競争で大きく出遅れたことを考えると、このままだとDX時代ではさらに差をつけられることは間違いないと言っていいでしょう。

 

今からでも遅くはありません。長期的な視点でITシステムのあるべき姿を思い描き、そのためのIT人材の強化を行い、ITベンダーとの関係を見直してください。また、ITベンダーもユーザを成功に導くために必要な対応方法を見直さないと、外資系企業に後れをとり、生き残れないと思います。

 

 

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