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DXのための組織改革とは?〈DXの基礎知識②〉

2021年1月5日

今回はDX(デジタル・トランスフォーメーション)の基礎知識や進め方について、イチから学びたい方のために、日本能率協会の「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進セミナー(オンライン)」で講師をつとめる高安篤史氏にコラムを寄稿いただきました。

このDXのコラム連載は、下記の様な流れで全9回にわたって進めていきます。

  • データの有効利用とは?
  • DXのための組織改革とは?・・・・・今回はココ
  • DXのための人材育成とは?
  • DXに関連する技術とは?
  • DX推進のための必要スキルとは?
  • DX推進におけるはまりやすい罠とは?
  • DX推進のためのコラボレーションとは?
  • DX推進のための業務改革とは?
  • DX推進のためのITシステムの最適化とは?

著者プロフィール

高安 篤史 氏
合同会社コンサランス 代表 / 中小企業診断士  

早稲田大学理工学部工業経営学科(プラントエンジニアリング、生産管理専攻) 卒業後、大手電機メーカーで20年以上に渡って組込みソフトウェア開発に携わり、プロジェクトマネージャ/ファームウェア開発部長を歴任。 IoTのビジネスモデル 構築に関するコンサルタントとしての実績 及び自身の経験から「真に現場で活躍できる人材」の育成に大きなこだわりを持ち、その実践的な手法は各方面より高い評価を得ている。
・情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、応用情報技術者、セキュリティマネジメント)
・IoT検定制度委員会メンバー(委員会主査)
・2019年4月に書籍『知識ゼロからのIoT入門』が幻冬舎から発売
・2020年に共同執筆した「工場・製造プロセスへのIoT・AI導入と活用の仕方」が発売

日本能率協会主催「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進セミナー(オンライン)」では講師をつとめ、参加者が自社のDX推進レベルの理解と改善方法の検討ができるプログラムを提供している。

DX時代の三現主義とは

極端な例ですが、DXを推進し、全体最適を実施するためには、従来からの部門の考えを無くし、フラットな組織をつくることが早道になる場合もあります。また、会議の方法も「バーチャル会議」いや、デジタル化による情報共有をすることで会議自体が不要になるという考え方も重要になります。

デジタル化が進むと、人と人とのコミュニケーション(意思疎通)が不足するという人もいますが、私は逆だと思います。データ(この場合は情報と言った方が良いと思いますが)共有により、人や組織の結びつきは必ず強くなります。DXにより、組織の結びつきを強くし、全体最適を図ることが重要となります。

三現主義という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「現場」・「現物」・「現実」の三つの現を重視する考え方ですが、DX時代もここは変わりません。ただ、この「現場」・「現物」・「現実」を一番良く表しているのはデータ(情報)です。

この意味が理解できない組織は、未だに過去の経験から定性的な判断で方針を決め、データの有効利用の意味さえ理解できていません。

「組織が変わる」はDX推進に必須の前提条件

組織改革のための早道は、2つあります。

1つ目は、経営者(トップ)自ら、データを基に判断すること、そうすれば自ずと組織が変わります。

2つ目は、データを基にした場合に従来と判断が変わり、そのことで成果があがる、という成功体験をすることです。成功体験のためには、スモールスタートが良く、大掛かりなことを実施するとかえって失敗します。

政府や官庁/行政におけるデジタル化の遅れは、国家の最重要課題です。デジタル庁の新設というひとつの組織改革を行う方向のようです。企業内のDXの推進においては、新たな部門を作成しても良いのですが、DXの推進がうまくいかない組織的な原因は、その部門に任せればよいという雰囲気が生まれてしまうことにあります。

DXを進める体制は、「全社一丸」です。政府や官庁/行政においては、縦割りの打破です。また、新規の部門の役割は、当初はリーダーとしての方向性作りや指導的な部分になりますが、軌道に乗ったあとは、逆に支援部隊として下支えに徹するくらいにした方がうまくいきます。

DXの推進において、必須の項目は、「企業が変わる」、「組織が変わる」、「個人も変わる」です。この3つの前提条件が無いと、いつまでたっても過去の延長であり、目先の改善に追われ、変革まではたどりつきません。

DX時代の組織の考え方に必要な4つのポイントとは

また、DX時代の組織の考え方に必須なことは下記(1)~(4)と考えます。

(1)オープン
DXの時代は、自前主義では限界があります。あらゆる企業との連携(技術共有、データ共有など)や中途採用など人材活用を促進すべきです。私が講師を担当する複数の企業が参加するセミナーでも、他社の企業の方と議論することで、自社の不足している部分を気づいてもらう演習を必ず取り入れています。

(2)アジャイル(迅速)
DX時代では、方針の変更を頻繁に実施することは重要です。変化をデジタル情報でいち早く検出し、AI(人工知能)なども駆使することで、対応をアジャイルに実施します。さらに、言うと、この経営/業務推進を「リアルタイムマネジメント」と呼び、如何に早く方向転換できるかがキーポイントであると説明しています。

(3)トライ(失敗の許容)
何事もトライしないと始まりません。ただし、誤解があってはいけませんので説明すると、曖昧な方針や想定が無いままのトライでは何も生まれません。また、失敗というと日本では否定的な考え方になりがちなので、“失敗”では無く、“アジャスト(調整)”と言い換えてもらった方が良いかもしれません。

(4)全社一丸
DXは、一部の部門や一部のメンバーでの推進では成功しません。トップダウンでの進め方は重要であるものの、経営陣の掛け声が空回りしている企業も多数あります。全社一丸で進める理由は、従来と異なり、“つながる世界”により、全ての担当者があらゆる情報を見て改善や改革を推進できること、全体最適を考えるためには、1人の役割だけでは限界があることです。

経営者から担当者まで、一人一人が価値創出を意識すべき

従来は、顧客から言われた製品を作っていれば良かった/上司から指示があったことだけをやっていれば良かったかもしれませんが、DX時代は、全ての担当者が価値創出を意識した業務改革を実施しないと競争に勝てません。特に欧米や中国企業からは完全に負けてしまいます。

日本の場合、社長の人選が密室で実施されることも多く、従来同様、業務のオペレーションができるだけで社長になるケースも多いことも問題です。この時代では社長がDX戦略を検討できないと会社を正しい方向に舵取りすることはできないでしょう。

オペレーションに長けた人材と戦略策定に長けた人材は別と思った方が良いでしょう。また、日本は経営責任も海外に比べ曖昧です。日本では、業績不振になっても社長を辞めることで責任を取ることが多いですが、海外では処罰などが適用されることもあり、この経営責任の甘さも企業の戦略的推進に大きく影響していると考えられます。


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