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リモートワークと従業員エンゲージメント

2020年9月4日

リモートワークが定着する一方、多くの企業で問題になっているのが「社内コミュニケーション」の低下です。

社内コミュニケーションの機会が減少することで、従業員の組織に対する帰属意識(エンゲージメント)が薄れてしまい、モチベーションや生産性の低下を招いてしまうのではないか、という懸念がマネジメント職を対象とした各種調査結果から浮き彫りになっています。

特に日本では、コロナ禍以前からリモートワークが進んでいた企業でも「社内コミュニケーション」に課題をもっている企業が多く、未だ正解を模索中の段階です。

また、従業員エンゲージメントの問題には、リモートワークという環境や制度への対応だけではなく、そこに臨む従業員のマインドセットにも働きかけが必要ということが少しずつ分かってきています。

では、海外の先進企業は、コロナ禍を経て現在、従業員エンゲージメントの課題をどのように捉え、取り組んでいるのでしょうか。うまくいっている先進事例から、ヒントを探ってみたいと思います。

そこで今回は、シリコンバレーでコロナ禍を体験したSB Telecom Americaの中村氏に、事業開発の視点からエンゲージメント向上のカギとは何かについてお話を伺いました。

※この記事では一般社団法人日本能率協会が発行している機関紙「JMAマネジメント 2020年8月号」の掲載記事をご紹介しています。

SB Telecom America Corp.
Director of Business Development
中村浩一郎氏

【プロフィール】(取材当時)
ノースカロライナ大学キーナンフラグラービジネススクール卒業。
香港駐在、米国留学を経て、2008年6月ソフトバンクグループ(株)入社。中国駐在を経て、2015年ロボット事業に参画。
2018年7月シリコンバレーに赴任し、現在に至る。2019年9月スタンフォード大学経営大学院エグゼクティブプログラム入学(2020年8月修了予定)

コロナ禍に即応したシリコンバレーのマインドセット

WeWork拠点をフル活用

SB Telecom Americaはソフトバンクのアメリカにおける事業拠点として、ニューヨーク、ロサンゼルス、シリコンバレーに拠点を設けています。
私が所属する事業開発部門が拠点としているのは、サンフランシスコ中心部の南に位置するシリコンバレーのサンマテオです。

事業開発部門の働き方のスタイルは、固定したオフィスを構えるのではなく、シェアードワーキングスペース事業を展開するWeWork拠点をフル活用するというリモートワーク型です。

シティと呼ばれるサンフランシスコ中心部から南東に位置するサンノゼまでの間に27カ所のWeWork拠点があり、スタートアップが集まるイベントの開催日や、海外からのお客さまが要望する面会場所に合わせ、最も近くて便利なWeWork拠点を利用します。

私自身も時と場合に応じてワーク・フロム・ホーム(在宅勤務)とWeWork拠点を使い分けています。

事業開発部門の活動は、将来有望なユニコーン企業の発掘を行い、日本にとどまらずグローバルなビジネス展開へとつなげること。
そのためには、シリコンバレーで毎日のように開催されるスタートアップが集まるピッチイベントに参加し、その企業の創業者と直接会うことが必要となります。

シリコンバレーはご承知の通りカリフォルニア州にあるIT系グローバル企業や多くのスタートアップが集積するエリアですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月6日にカリフォルニア州に緊急事態宣言が出されたことでこれらのイベントがすべて中止になりました。

私もチームのメンバーもワーク・フロム・ホームを余儀なくされたわけです。

変化に即応する企業たち

しかし緊急事態宣言から1週間も経たないうちに、スタートアップにビジネスの機会を提供するイベントがZoomによるオンラインによって開催され始めました。

イベントを主催するアクセラレーターの対応も早く、コロナに動ずることなく、変化に対してスピーディに進化、アップデートする姿がそこにあったのです。

シリコンバレーならではですが、私は時代の変化、ニューノーマルといわれる時代に臨機応変に対応するマインドセットシフトの重要性を強く感じました。

また4月9日には、シリコンバレーに本拠を置く企業のビジネスパーソンたちが、コロナの影響にどう対処していくかを発言するオンラインイベントが開催されました。

たとえばソフトウェア開発企業からは、バーチャルでも1対1の電話会議を行い、リモート会議も活用してコミュニケーションを多く取ることで人と濃くつながり、リアルと遜色なく仕事が進められている事例が紹介されました。

その他の企業からは、社内エンゲージメントの観点から「全社員のミーティングを年数回から毎週へと変更」「メンタルケアのためのマインドフルネスの促進」といった施策が発表されました。

このような対応の速さには実に目を見張るものがあります。

従業員エンゲージメントを高める要素

重みをもつリーダーの決断と行動

従業員エンゲージメントについて、従来はHRの観点から会社への帰属意識などをどう高めるかの議論が行われてきたように感じますが、今回改めて事業開発組織の1メンバーとして考える機会となりました。

コロナの感染拡大を経て会社はどうあるべきか、トップやリーダーがそのメッセージを社外だけでなく社内にも発信しそれを行動に移して「これが我が社のやり方だ」ということを示すことが重要で、いままさにそれができる絶好の機会だと思うのです。

実際に当社では、カリフォルニア州で新型コロナウイルス感染者が出始めた1月31日の段階で、トップ自らが米国内の各拠点向けに注意喚起を行い、さらにその4日後には全社員在宅勤務のアナウンスを行いました。

企業規模が大きいと海外拠点は日本本社の決定を待ち、それに倣う傾向が強いものです。
しかし当時カリフォルニア州における危機が日本に伝わりにくかったなか、トップとして適切なアクションだと感じていました。

私は最近、リーダーシップのあり方をテーマにしたオンラインセッションを受講しました。
そこから得た学びは、人びとがリーダーの言葉に期待し、耳を傾けるときというのは実のところは驚くほど一瞬であり、それは有事の際である、ということ。

自分がどうしてよいかわからない時、それを自分事としてリーダーの言葉を真摯に受け入れることができる、ということでした。

9・11アメリカ同時多発テロの際、当時のブッシュ大統領が崩れ落ちたワールドトレードセンターの瓦礫の上に立ち、現場で救出活動にあたる消防隊員や救急隊員などに向け拡声器を手に「私にはあなたたちの声が聞こえる」「熱心に働いてくれてありがとう」とメッセージを発しました。

これがいまだに語り継がれているように、コロナが収束した後も、いま発せられたリーダーの言葉ととった行動は長く語り継がれるということです。

このリーダーのメッセージをメンバーが「他人事」ではなく「自分事」として物事を捉える思考がとても重要です。

このリーダーのメッセージに個々のメンバーが応えることができれば、ポストコロナの時代においてそのチーム、会社は大きく成長するのではないでしょうか。

ITツールの利活用でコミュニケーションの垣根を取り払う

エンゲージメントを高めるため、いかにしてコミュニケーションを図るかが争点になります。

そこでコミュニケーションにどれだけ時間をかけたか、何回ミーティングの機会をもったかという尺度は的外れに感じます。

「人間が触れ合う時、必要なコミュニケーションの量は信頼の量に反比例する」という言葉がありますが、上司と部下、同僚同士の信頼関係が重要であり、フラットな組織が円滑なコミュニケーションを生む大切な要素だと私は考えます。

事業開発部のメンバーは4名ですが、各メンバーがそれぞれ担当する業種領域をもっており、各メンバーが見つけたイベントの情報をチームで共有することは以前から習慣づいていました。

活用するコミュニケーションツールはビジネスチャットツールのSlack、ウェブ会議システムのZoomです。最適なツールを組み合わせてチームのメンバー間のコミュニケーションをうまく補完しています。

たとえばSlackを活用すると、日本企業で重視される階層の垣根が見事に取り払われます。
メールだと誰にc.c. を付けるべきか、先輩を飛ばしてボスに直接発信して問題はないかなど「忖度」が働きがちです。

しかしSlackを使ったメッセージなら、参加する全員に一斉配信されます。リアルタイムで情報がシェアされ、トップであろうと若いメンバーであろうとディスカッションに参加することができます。

先日自身で企画したウェビナーで画面越しの170名ほどの参加者のみなさんに向けて講演する機会があったのですが、その準備の過程で、いわばコロナのおかげでトップにリーチする大義名分をもつことができ、結果何度も壁打ちに付き合っていただきました。

他にもつい先日、スタートアップの発掘・受注をオンラインのみで完結させた同僚の事例がSlack上で発信されたのですが、これが即座にトップの目に届き「素晴らしい」との賞賛が社内を飛び交いました。

オンラインコミュニケーションツールがフラットな組織と円滑なコミュニケーションを実現するブレークスルーをもたらすのです。

部署や自分の担当業務の垣根を超えてお互いに関心をもつようになれば、新しい企業文化が生まれるのではないでしょうか。

新しい仕組みを導入する際、初めは労力が伴います。それを面倒くさいと考えるか、新しい取り組みだとワクワク感をもって臨むかで大きな差が生まれます。

ツールに使われるのではなく、ツールをいかにして使いこなすかという気構えが大切だと思うのです。

私がシリコンバレーに赴任したのは2018年の7月。最初に手掛けたのは、Slackをどう使えばメンバーや多忙なボスと円滑にコミュニケーションを取れるかというテーマでした。

いわばSlack Masterを拝命し、私は真剣にこれを考えました。もしこれが実現していなければ、いまここで従業員エンゲージメントについてお話しすることはできなかったでしょう。

メンバーの課題を自分事化する

オンラインでの「つながり」オンライン上のコミュニケーションでは、従業員エンゲージメントの向上は図れないのでは、という声もあります。

そんなことはないでしょう。「つながり」をどう実現するかを考えればよいのです。

たとえば、私はZoomによる社内ミーティングに開始時間より前にログインし、同じように時間前に入ってきたメンバーと雑談をします。ミーティング中にはメンバーに努めて問いかけを行い、それに対する反応に対しひたすら耳を傾けます。

このような小さなことからもチームの信頼関係が生まれ、エンゲージメントの向上につながるのではないでしょうか。

従業員エンゲージメントを高めるには、メンバー個々が抱えている課題は異なることを認識すべきだと思います。

たとえば小さな子どもがいるメンバーにとって、ワーク・フロム・ホームはかえって障害となる可能性があります。

課題を取り除くには、このような場合他の企業ではどのような取り組みを行っているかをリサーチし、有用な情報をキュレーションしてシェアすることが有効です。

メンバーによって有用な情報をチームの誰彼となく真剣に集め、そしてSlackに投稿する。まさに他のメンバーの課題を「自分事」として考える動きが当社では生まれています。

「つながる場」としてのオフィス

テレワークが常態化すると見られるポストコロナの時代、オフィスの位置づけは確実に変わると思われます。
シリコンバレーの企業においてリモートワークは当たり前の働き方ですが、カリフォルニア州による緊急事態宣言が解除された後、リモートワークの従業員も出社し、お互いの労苦を思いやりながら雑談に花を咲かせたといいます。

オフィスはデスクワークをする場ではなく、従業員がリアルにつながっている感覚を確かめるコミュニケーションのハブとしての役割に変わるのではないでしょうか。

コロナで得た気づきを

シリコンバレーでは「Fail first,Fail small」という言葉がよく使われます。
失敗してもそれを咎めるのではなく、そこから得た気付きを次に生かすことを繰り返していけば、一足飛びに理想の組織にならずとも、それに近づくことができる。
そして従業員エンゲージメントの向上につながると私は信じています。

常にアンテナを高く張り、新たな気づきを生かし、従業員エンゲージメント向上を追求していきたいと思います。

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